2021.11.18 [インタビュー]
TIFF公式インタビュー「主人公を演じた松井玲奈さんとうまく連携しながら作り上げました。」安川有果監督:アジアの未来部門『よだかの片想い』

東京国際映画祭公式インタビュー 2021年11月6日
よだかの片想い
安川有果(監督)
公式インタビュー

©2021 TIFF

 
顔にアザのある大学院生アイコは、幼い頃からからかいや畏怖の対象にされ、恋や遊びは諦めていた。ところがアザのことで取材を受けたのがきっかけで、社会的な注目を集め、映画監督の飛坂と知り合う。恋に揺れるアイコの姿を通して、コンプレックスと正面から向き合う勇気を描く本作は、ややもすれば嘘っぽく説教臭くもなる題材を、脚本、演出、演技の絶妙なバランスで、しみじみとした感動が味わえる好編に仕上げている。安川有果監督(1986〜)は、これが初の長編商業映画作となるが、作家性を損なうことなく、真摯に題材と向き合っているところに好感が持てる。
 
――これは主演の松井玲奈さんが念願した作品ですね。
 
安川有果監督(以下、安川監督):松井さんのマネジメント会社がいろんな関係者に話を持ちかけ、製作や配給の会社が参加して映画化が実現しました。私はまだ製作会社を探している頃、村上春樹さん原作の舞台「神の子どもたちはみな踊る」を観に行き、主演されていた松井さんに初めてお会いしました。その後、正式にお話が来て、改めて監督として挨拶しました。
 
――松井さんは自分でも小説を書くし、原作の島本理生さんとも親しい間柄です。役に対する思い入れも強かったと思いますが、どう演技指導されたのでしょう?
 
安川監督:松井さんが自身で望んだ企画ですから、彼女の意見を尊重することは大切です。でも監督に選ばれた以上、私も役の解釈を松井さんに伝えました。
 
――松井さんの抑制された演技は、そうして監督がつけられたのですね。
 
安川監督:ふたりで話し合って決めていきました。後半、飛坂とアイコが喧嘩するシーンがあり、松井さんは初めての恋だから、アイコは強く言い返せないのではないかと感じていました。でも私は、ここは彼女の感情が迸る重要なシーンだから、もっと迫力がほしいとお願いしました。そこで撮影は一時中断しましたが、試しに私の要望どおり松井さんに演じてもらったところ、飛坂役の中島さんも「今の演技でアイコがすごく変わったのが伝わった」と言ってくれて、松井さんも最後は納得してくれたんです。
公式インタビュー
 
――松井さんはこの作品では企画者兼主演女優という強い立場にありますが、そうした立場から関与することはなかったのですね?
 
安川監督:脚本の段階で意見をいただく機会が数回あったくらいです。彼女はとても聡明な方で、映画は監督が完成させることをよく理解しており、現場では俳優として演じることに徹してくれました。
 
――松井さん以外のキャストはどう決めたのでしょう?
 
安川監督:以前から注目していた役者さんに声をかけ、いちばん役に相応しい方に決めました。ただ女優の美和役だけは原作から映画用に膨らませたキャラクターだったので、オーディションをすることに決め、手島実優さんを選びました。
 
――中島歩さんは『偶然と想像』でも一見女性に冷淡な役柄でしたね。
 
安川監督:アイコが好きなのか好きじゃないのかやきもきさせる役どころで、いい塩梅にキャラクターの個性を引きだしてくれたと思います。
 
――ミュウ役の藤井美菜さんも、アイコの気持ちをわかっていなかったと告白するシーンで、素晴らしい演技を披露しています。
 
安川監督:あのシーンはカメラ位置を変えて何パターンか撮影しましたが、藤井さんは撮影する度に感情をこめて涙を流してみせ、凄い人だなと思いました。泣くお芝居はテイクを重ねるうちに涙も乾いて、感情も乗らなくなるはずですが、藤井さんは感応できるセリフがあったのか、心に刺さる芝居をその都度見せてくれました。
 
――美和とアイコが話すシーンで、アイコの心象にフォーカスするような音と映像の処理がなされています。
 
安川監督:リップずらしの手法は海外でよく見かけますが、日本ではあまりやりません。だから試してみたくなりました。音声と映像をずらすことでアイコの混乱ぶりを伝え、そのあとに続く不穏な空気を醸成したいと思いました。
 
――アイコが小学生時代の自分に会う象徴的なシーンもあります。
 
安川監督:あれは城定秀夫さんの脚本に元々あったシーンですが、城定さんは前作の『Dressing Up』(12)を観てくれているので、私の作家的な傾向を理解して書いてくれたのではないかと思います。これに続くマグネットのシーンと併せて、非日常的な広がりを作品にもたせることができたのは良かったです。
 
――この映画は終始ゆったりした間合いで進んでいきますが、次のシーンへの移行は早く、無駄がないですね。
 
安川監督:今回、編集で割愛したシーンはゼロです。クランクインの2週間前に、助監督からこのままだと3日オーバーだと言われ、現場が慌ただしくなるのは嫌なので事前に削りました。大事なシーンだけを残し、シーン数自体は減らすことで強度が出ると思っていたので、現場で流れ作業的に撮っていくやり方は避け、本当に大事なシーンだけ丁寧に撮っていきました。
 
――声高にならず、主人公の心情を際立たせることに心血を注いでいて、共感しました。
 
安川監督:それは私以上に脚本の城定さんが意識されていたことで、シーンをきちんと撮るうちに、自然にそうなっていきました。音楽の使い方も気に入っていて、今起きている出来事を映していながらも、どこか思い出のような雰囲気を湛えています。
 
――次回作も抑制したタッチの作品になりそうでしょうか。
 
安川監督:実は映画化したい小説があり、ぜひそれを撮りたいと願っています。これは『Dressing Up』にちょっと近い感じの、ホラーとスリラーのジャンルを横断した青春映画です。
 
――今回は抑制されましたが、次回は…
 
安川監督:弾けたいです!
 

取材構成 赤塚成人(四月社・TIFF Times編集)

 
 
第34回東京国際映画祭 アジアの未来部門
よだかの片想い
公式インタビュー

©島本理生/集英社 ©2021映画「よだかの片想い」製作委員会

監督:安川有果

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