2021.11.18 [インタビュー]
TIFF公式インタビュー「世界に、トルコの遊牧民の存在を知って欲しいと思いました。」イフェト・エレン・ダヌシュマン・ボズ監督:アジアの未来部門『最後の渡り鳥たち』

東京国際映画祭公式インタビュー 2021年11月5日
最後の渡り鳥たち
イフェト・エレン・ダヌシュマン・ボズ(監督/脚本/プロデューサー)
公式インタビュー

©2021 TIFF

 
トルコ南部、遊牧民の女家長ギュルスムは、季節ごとに家畜とともに移り住む伝統的な暮らしを続けてきたが、足の悪い夫や娘夫婦は定住生活を望んでいる。時代の急速な変貌が家族に大きな波紋を巻き起こす。トルコのテレビの脚本や短編を生み出してきたイフェト・エレン・ダヌシュマン・ボズの初の監督作は、変化に惑わされずに生きる遊牧民への共感に溢れている。美しく瑞々しい映像がトルコ草原で生きる人々の思いを浮かび上がらせている。
 
――作品を興味深く拝見いたしました。生み出すきっかけというか、どんなアイデアから作ろうと思われたのですか?
 
イフェト・エレン・ダヌシュマン・ボズ(以下、ボズ監督):この作品でプロデュースと共同脚本を務めた私の夫は撮影監督です。彼が遊牧民のドキュメンタリーを撮ることになりました。遊牧民は行く先々でテントを張り、暮らします。私も参加して1か月間、400㎞を共にしました。このドキュメンタリーは多くの賞を受賞しました。
 
――その体験が本作に結びついたのですね。
 
ボズ監督:このドキュメンタリーに力を得た私たちは、遊牧民を主人公にした劇場用映画を作る決心をしました。なぜなら、ドキュメンタリーを観る観客層が限られ、彼らのことを理解してもらうためには、劇映画の方がはるかに最適だと思ったわけです。まず、遊牧民についてリサーチをしました。
 
――資金で苦労はありませんでしたか。
 
ボズ監督:インディペンデント作品なので、資金集めには苦労しました。幸いなことに、トルコの政府が一部資金を出してくれ、TRTというテレビ局の脚本コンテストや、アメリカの撮影監督ジョン・ベイリーが審査員だったコンテストでも賞を獲りました。こうして私たちが書いた脚本に話題が集まり、TRTがプリセールスのファンドを作ってくれたことで、製作に至ることができました。とはいえ、資金は限られていました。スタッフもキャストも微々たるギャラで参加してくれました。作品に対する思い入れが強かったからだと思います。
 
――トルコで遊牧民は少ないのでしょうか。民族的問題があるのですか。
 
ボズ監督:映画の冒頭にも記したのですが、現在、約120名の人が遊牧民として存在し、400㎞もの距離を移動します。彼らは羊やヤギを飼っていますから、牧草を求めて移動していくわけなのです。でも彼らがこれまで巡った場所は、近代化されたことで昔ほど豊かな草が生えなくなるなど、どんどん環境が変わってしまっています。しかも周辺の村人たちも彼らに冷たいのです。ただ、かつては遊牧民だったという人が村人にかなり多いのです。
 
――撮影ではプロの俳優を使ったのですか。
 
ボズ監督:メインのキャラクターは全てプロの役者です。大変過酷な仕事でしたが、快く応じてくれました。小さい赤ちゃんは実際の遊牧民の子供です。遊牧民がサポートしてくれたのは、自分達の声を届けたいとの思いからなのでしょう。この作品が国際的な場で上映され、世界中にトルコの遊牧民の存在を知ってもらうことが願いです。コロナ禍で撮影したのですが、スタッフが出演した場面もかなりあります。
 
――そもそもご主人が遊牧民に興味を引かれたのは、何かきっかけがあったのですか。
 
ボズ監督:ドキュメンタリーの仕事をもらって、初めて興味を持ち始めたようです。私と夫が魅力を感じた点は、彼らがまったく物欲がないということです。テントだけを持って気が向いたところでテントを張って暮らす、まさに自然と共存して生きています。夫はそこに魅力を感じたようです。私自身は遊牧民の女性が強いことに興味を持ちました。映画でも描いていますが、すべて判断は女性がします。トルコの映画業界も含め、映画の中には強い女性の役というのがもっと必要だと思っています。
 
――ご主人が撮られたドキュメンタリーが先にあったからこそ、素晴らしい映像が撮れたのかなと感じました。この映画で実を結んだ気がします。
 
ボズ監督:確かに夫の経験が生かされていると思います。撮影期間で付け加えれば、制作中にパンデミックになったことです。私たちはイスタンブールから100kmくらいの小さな山村にいました。そこには遊牧民の2家族とクルーしかいなかったのに、撮影中止の指令が来ました。もし中断したら絶対完成できないという思いから、スタッフと相談して、撮影を続行しました。終了して2か月後に4日間だけの撮影をして、映画が撮了したわけですが、私たちの頭の中にはもっと素晴らしい景色があって、それが撮れなかったことがとても残念でした。自分の作品に100%満足する監督はいないと思います。監督の性ですね。
 
――主人公の女家長が素晴らしく存在感がありました。キャスティングに関してはどのような経緯でお決めになりましたか?
 
ボズ監督:この役で必要な要素というのが、顔です。遊牧民の多くは青い目かグリーンの目をしています。肌の色もそんなに濃くはありません。そういった人をまず探さなければいけなかったのです。あまり好かれないキャラクターだから、あえて顔は美しくて柔らかい感じの人を探していました。シェンヌル・ノガイラルを選びましたが、決定的だったのは、遊牧民独特のアクセントを彼女が駆使できたことです。この映画を観た方が「あの人は本当に実際の遊牧民なのか」と聞かれたほどです。
 
――この作品が初監督だと伺いました。いつか撮ってやろうという気持ちだったのですか?
 
ボズ監督:高校時代に『ドクトル・ジバゴ』と『カッコーの巣の上で』を観て以来、私は映画監督を目指していました。映画を学べる大学を探し、両親を説得して入学しました。とにかく映画を作りたい、脚本を書きたい、ということだけで突っ走っていました。夫と出会って、結婚して、ふたりの娘も生まれ、映画作りからは遠ざかりました。映画への情熱が強かったので、少し鬱になるぐらいでした。だからこの映画を撮れたということは幸運なことでした。
 
――新作のご予定というのはあるのですか?
 
ボズ監督:ブラックノワール的な作品を、今考えていまして、夫と脚本を書いている最中です。今度は夫が監督で、私がプロデューサーを担当します。それから今度は私の映画を作ろうと思っています。
 

インタビュー/構成:稲田隆紀(日本映画ペンクラブ)

 
 
第34回東京国際映画祭 アジアの未来部門
最後の渡り鳥たち
公式インタビュー

©IEDB Film

監督:イフェト・エレン・ダヌシュマン・ボズ

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