©2021 TIFF
日比谷、有楽町、銀座地区で10日間にわたり開催されてきた第34回東京国際映画祭が11月8日に閉幕した。クロージングセレモニーの会場となったTOHOシネマズ日比谷では、審査委員長のイザベル・ユペールをはじめ、青山真治、クリス・フジワラ、ローナ・ティー、世武裕子の審査員陣が会見した。
今年のコンペティション部門は、カルトリナ・クラスニチ監督によるコソボ・北マケドニア・アルバニア合作映画「ヴェラは海の夢を見る」が最高賞にあたる東京グランプリ/東京都知事賞を受賞した。審査を終えた感想を求められたユペールは「わたしはこのフェスティバルで旅をさせていただいたと考えております。もちろんフランスという遠い国から来た、という意味での旅もありますが、さまざまな映画を通じて本当に素晴らしい旅をさせていただいたという気持ちもあります。映画を観て、知らない国、行ってみたい国もたくさん見つかりました。映画を通じていい発見がありました」と振り返る。
さらに「映画というのは常に旅であり、女優という仕事も内面を探っていく旅だと思います。そして観客として映画を観るということもまた旅であると思っています。映画の使命とは、世界で今起きていることを色々な人に広げていくということだと思いますが、この映画祭ではそれが非常にうまく実現できたように思います」と語るユペール。上映作品に関しても「今回は非常に多様性に富んだ、期待以上のセレクションで、本当に素晴らしい時間を過ごさせていただきました」とニッコリ。さらに、審査の過程においても「審査員の5人は、世界のいろんな国から来ていて、まったく知らない同士ではありましたが、議論を深めていく中で、お互いをより深く知ることができました」と充実感をにじませる。
そして最後に「東京国際映画祭が、この厳しいコロナ禍の中で実現できたということはとても素晴らしいことだと思います。このように審査員の皆さんと一緒に、我々が必要としている映画を観ながら、素晴らしい10日間を過ごせたことを感謝しております」と謝意を示した。
今回の主要な賞を得た「ヴェラは海の夢を見る」「市民」「もうひとりのトム」という3作品は、それぞれ「子どものために立ち向かう母親」というテーマの作品だった。そのことに関して審査員のローナ・ティーは「今回はみんなで本当にそれぞれの映画の深いところを掘り下げて、何回も話し合いながら審査を行いました。それこそ映画の作られ方から、演技、社会に与える影響といったところまで、すみずみまで掘り下げ、話し合ったんです。そういう意味で、母親というテーマの作品が選ばれたのは偶然ではありますが、ただこれらの作品の女性たちは自分たちの人生に責任を持っていて、自分が犠牲者だとは思っていない。そのような語り口の力強さをわたしたちが感じて、その映画につながりを持ち、そして受け入れられたということです」と話す。さらに観客賞および、審査員からのスペシャルメンションを獲得した「ちょっと思い出しただけ」の伊藤沙莉に対しても、「わたしもひとりの観客として伊藤さんの演技が好きでした。そしてこの映画に出ていた役者たちに恋をしていました。なので、観客賞としても素晴らしい結果だったと思います」と付け加えた。
今後も映画祭を長く続けていくためのアドバイスを求められたユペールは、「まずはこのまま映画祭を続けていくことだと思います。今、我々は非常に困難な状況下にありますが、今後どのような形で制御できるかを見るのは来年以降の話なのかなと思います」。フジワラは「わたしは東京フィルメックスを支持していますし、素晴らしい映画祭だと思っています。しかし今年は両方の映画祭が同時期に開催することになったため、どうしても東京国際映画祭が目立ってしまうことが多かった。だからこそ今後は東京フィルメックスも目立たせることも必要だと思う」とアドバイスを送ると、ローナも「映画祭の強さというのは、編成プログラムだけでなく、街の支援も重要。政府や企業、メディア、そして街の方々すべてが映画祭を完全に支持することで、強固な映画祭になると思う」と訴えた。
続けて青山が「アジアという枠を取り払って、もっと世界の映画と競いあった方がいいんじゃないか。日本映画も、世界の映画と一緒にもまれることで、何かが変わるかもしれない、というのが僕の感想です」と語ると、世武も「いろんな種類の映画を観ることができた反面、音楽やポスプロでハッとさせられる映画がなかった。そういう意味で、(音楽に言及した)トークセッションなどがあると、(映画祭が)豊かになるかもしれない」とそれぞれの立場から提言した。
会見には観客賞に輝いた「ちょっと思い出しただけ」の松居大悟監督も参加し、「映画はお客さんに観てもらって初めて完成するという思いで作っているので、観客賞は一番うれしいですね」と喜びを噛み締める。主演の池松壮亮、伊藤沙莉にはこれから会うそうで、「伊藤さんはSNSで『うれしい』と(喜びを爆発させて)荒ぶっていましたね。そして東京国際映画祭のコンペティション部門に参加する時に、池松くんと『観客賞は絶対にとりたいね』という話をしていたので。彼になんと言って伝えようか、今から楽しみですね」と笑顔を見せた。
©2021 TIFF
また会見終了後、審査委員長のユペールが取材に応じた。今年はコロナ禍のため、オープニングのレッドカーペットイベントをはじめ、日本のファンとの交流を果たせなかったが、「もちろん日本のファンとの交流の場が少なかったのは残念でしたが、この映画祭に招かれて日本に来られたこと自体、うれしいことでした。濱口監督との対談も楽しみましたし、貴重な経験になりました。この対談を実際に会場でご覧いただけた方は少なかったですが、聞いた話によるとオンラインで多くの方に試聴していただけたそうです。わたしはけっこうポジティブ思考なので、瓶が半分しか入っていなかった、というよりも、瓶に半分も入っていた、と考えるようにしているんです。ですからこの厳しい状況で映画祭ができたことがうれしい。だから今回できたことに対する感謝はありますけど、できなかったことに対する残念な思いというのはありません」と胸中を告白。「今度は、わたしが出演する作品で映画祭に再び参加して、そしてその時に日本のファンの方との交流ができたらいいなと思っています」と日本のファンにメッセージを送った。
日本滞在中は「今回はバブル方式で隔離されていましたが、そのバブル期間が明けた後は、根津美術館に行ったり、多少ですが日本を楽しむ事ができました。もともと今回の来日は長期滞在の予定だったんです。まずは新国立劇場でオランダ人の演出家(イボ・バン・ホーベ)によるテネシー・ウィリアムズの『ガラスの動物園』の公演があって、その後はフランスのエリーズ・ジラール監督の映画の撮影が日本であり、そしてその後にこの映画祭というスケジュール。しかし新国立劇場の公演が来年9月に延期になり、そして映画撮影もおそらく来年の6月には実現するだろうと思われるため、またすぐに日本に戻ってきます。その時はぜひとも楽しみたいと思います」と今後の予定について明かすひと幕もあった。
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日比谷、有楽町、銀座地区で10日間にわたり開催されてきた第34回東京国際映画祭が11月8日に閉幕した。クロージングセレモニーの会場となったTOHOシネマズ日比谷では、審査委員長のイザベル・ユペールをはじめ、青山真治、クリス・フジワラ、ローナ・ティー、世武裕子の審査員陣が会見した。
今年のコンペティション部門は、カルトリナ・クラスニチ監督によるコソボ・北マケドニア・アルバニア合作映画「ヴェラは海の夢を見る」が最高賞にあたる東京グランプリ/東京都知事賞を受賞した。審査を終えた感想を求められたユペールは「わたしはこのフェスティバルで旅をさせていただいたと考えております。もちろんフランスという遠い国から来た、という意味での旅もありますが、さまざまな映画を通じて本当に素晴らしい旅をさせていただいたという気持ちもあります。映画を観て、知らない国、行ってみたい国もたくさん見つかりました。映画を通じていい発見がありました」と振り返る。
さらに「映画というのは常に旅であり、女優という仕事も内面を探っていく旅だと思います。そして観客として映画を観るということもまた旅であると思っています。映画の使命とは、世界で今起きていることを色々な人に広げていくということだと思いますが、この映画祭ではそれが非常にうまく実現できたように思います」と語るユペール。上映作品に関しても「今回は非常に多様性に富んだ、期待以上のセレクションで、本当に素晴らしい時間を過ごさせていただきました」とニッコリ。さらに、審査の過程においても「審査員の5人は、世界のいろんな国から来ていて、まったく知らない同士ではありましたが、議論を深めていく中で、お互いをより深く知ることができました」と充実感をにじませる。
そして最後に「東京国際映画祭が、この厳しいコロナ禍の中で実現できたということはとても素晴らしいことだと思います。このように審査員の皆さんと一緒に、我々が必要としている映画を観ながら、素晴らしい10日間を過ごせたことを感謝しております」と謝意を示した。
今回の主要な賞を得た「ヴェラは海の夢を見る」「市民」「もうひとりのトム」という3作品は、それぞれ「子どものために立ち向かう母親」というテーマの作品だった。そのことに関して審査員のローナ・ティーは「今回はみんなで本当にそれぞれの映画の深いところを掘り下げて、何回も話し合いながら審査を行いました。それこそ映画の作られ方から、演技、社会に与える影響といったところまで、すみずみまで掘り下げ、話し合ったんです。そういう意味で、母親というテーマの作品が選ばれたのは偶然ではありますが、ただこれらの作品の女性たちは自分たちの人生に責任を持っていて、自分が犠牲者だとは思っていない。そのような語り口の力強さをわたしたちが感じて、その映画につながりを持ち、そして受け入れられたということです」と話す。さらに観客賞および、審査員からのスペシャルメンションを獲得した「ちょっと思い出しただけ」の伊藤沙莉に対しても、「わたしもひとりの観客として伊藤さんの演技が好きでした。そしてこの映画に出ていた役者たちに恋をしていました。なので、観客賞としても素晴らしい結果だったと思います」と付け加えた。
今後も映画祭を長く続けていくためのアドバイスを求められたユペールは、「まずはこのまま映画祭を続けていくことだと思います。今、我々は非常に困難な状況下にありますが、今後どのような形で制御できるかを見るのは来年以降の話なのかなと思います」。フジワラは「わたしは東京フィルメックスを支持していますし、素晴らしい映画祭だと思っています。しかし今年は両方の映画祭が同時期に開催することになったため、どうしても東京国際映画祭が目立ってしまうことが多かった。だからこそ今後は東京フィルメックスも目立たせることも必要だと思う」とアドバイスを送ると、ローナも「映画祭の強さというのは、編成プログラムだけでなく、街の支援も重要。政府や企業、メディア、そして街の方々すべてが映画祭を完全に支持することで、強固な映画祭になると思う」と訴えた。
続けて青山が「アジアという枠を取り払って、もっと世界の映画と競いあった方がいいんじゃないか。日本映画も、世界の映画と一緒にもまれることで、何かが変わるかもしれない、というのが僕の感想です」と語ると、世武も「いろんな種類の映画を観ることができた反面、音楽やポスプロでハッとさせられる映画がなかった。そういう意味で、(音楽に言及した)トークセッションなどがあると、(映画祭が)豊かになるかもしれない」とそれぞれの立場から提言した。
会見には観客賞に輝いた「ちょっと思い出しただけ」の松居大悟監督も参加し、「映画はお客さんに観てもらって初めて完成するという思いで作っているので、観客賞は一番うれしいですね」と喜びを噛み締める。主演の池松壮亮、伊藤沙莉にはこれから会うそうで、「伊藤さんはSNSで『うれしい』と(喜びを爆発させて)荒ぶっていましたね。そして東京国際映画祭のコンペティション部門に参加する時に、池松くんと『観客賞は絶対にとりたいね』という話をしていたので。彼になんと言って伝えようか、今から楽しみですね」と笑顔を見せた。
©2021 TIFF
また会見終了後、審査委員長のユペールが取材に応じた。今年はコロナ禍のため、オープニングのレッドカーペットイベントをはじめ、日本のファンとの交流を果たせなかったが、「もちろん日本のファンとの交流の場が少なかったのは残念でしたが、この映画祭に招かれて日本に来られたこと自体、うれしいことでした。濱口監督との対談も楽しみましたし、貴重な経験になりました。この対談を実際に会場でご覧いただけた方は少なかったですが、聞いた話によるとオンラインで多くの方に試聴していただけたそうです。わたしはけっこうポジティブ思考なので、瓶が半分しか入っていなかった、というよりも、瓶に半分も入っていた、と考えるようにしているんです。ですからこの厳しい状況で映画祭ができたことがうれしい。だから今回できたことに対する感謝はありますけど、できなかったことに対する残念な思いというのはありません」と胸中を告白。「今度は、わたしが出演する作品で映画祭に再び参加して、そしてその時に日本のファンの方との交流ができたらいいなと思っています」と日本のファンにメッセージを送った。
日本滞在中は「今回はバブル方式で隔離されていましたが、そのバブル期間が明けた後は、根津美術館に行ったり、多少ですが日本を楽しむ事ができました。もともと今回の来日は長期滞在の予定だったんです。まずは新国立劇場でオランダ人の演出家(イボ・バン・ホーベ)によるテネシー・ウィリアムズの『ガラスの動物園』の公演があって、その後はフランスのエリーズ・ジラール監督の映画の撮影が日本であり、そしてその後にこの映画祭というスケジュール。しかし新国立劇場の公演が来年9月に延期になり、そして映画撮影もおそらく来年の6月には実現するだろうと思われるため、またすぐに日本に戻ってきます。その時はぜひとも楽しみたいと思います」と今後の予定について明かすひと幕もあった。