2021.11.02 [イベントレポート]
「「誰かの」というのがもしかしたら「私の」なのかもしれない」10/31(日) Q&A『誰かの花』

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©2021 TIFF

 
10/31(日) アジアの未来部門『誰かの花』上映後、奥田裕介監督をお迎えし、Q&Aが行われました。
⇒作品詳細
 
石坂健治SP(以下、石坂SP):それでは改めまして。奥田監督、今日は世界で初めてこの映画をご覧になるお客様と一緒にご覧になって、今どんな感じですか?
 
奥田監督(以下、奥田監督):すごい汗をかきながら見たんですけども、この映画は4年以上かけて撮った映画ですので、ここでみなさんと世界初上映で一緒に観れて本当に嬉しかったです。ありがとうございました。
 
石坂SP:高齢化問題も含めた団地の現在ということと、ちょっとミステリーが入ってくるというこの物語自体、それからこの映画自体が4年と仰いましたけれども、この映画の成り立ちをご説明いただけますか?
 
奥田監督:この作品が長編2作目になりまして。1作目に撮った映画の編集をしていたのがもう5年前なんですけれども、明るい話ではないんですけれど、5年前の編集中に身内を交通事故で亡くしてしまいまして、そこからもう本当に脚本とかが一行も書けなくなってしまって。その中で色々な本を書こうと思ったんですけど、ここに立ち向かわないと、自分の中で消化しないと、まあ消化できないんですけども、消化しないと次には多分進めないなっていう風に思いましてこの作品を書くことに決めました。
当時書き始めた本というのが恥ずかしいくらい、「交通事故ダメだ」みたいな、娘を交通事故で亡くした父親の話を最初書いていたのですが、あまりにも説教臭いというのがありまして。今だから言えるのですが、時間ってやっぱりすごく薬になるなという風に思いまして。月日が経てば家族の在り方とかいろんなことが変わってきて、社会的に見れば僕は被害者の家族でしたが、その被害者がまた交通事故の被害者になってしまうという怖さよりも、加害者になってしまうという怖さの方がだんだん大きくなってきて、僕も車を運転するんですけども、運転がすごく怖くなったり。そういうところから、被害者の家族が加害者の可能性を持った時にどうなっていくんだろうというのを、ロケ地だった団地を歩きながらすごく考えてこういった話が出来ました。
 
石坂SP:そして、ジャック&ベティさんの企画という形になっていったという流れになりますか?
 
奥田監督:ジャック&ベティさんの30周年ということだったんですけれども、製作委員会や、ジャック&ベティさんのプロデューサーの方々も、パーソナルなものを撮っていいということで、かなり自分の脚本をオリジナルで書いて撮らせていただきました。
 
石坂SP:ありがとうございます。それでは皆様からのご質問を受けたいと思います。
 
Q:奥田監督ありがとうございました。2つございます。まず1つは和田光沙さんは素敵な女優さんですが、『蒼のざらざら』からの繋がりなのでしょうか。それとも改めてオーディションしたのでしょうか。
それから2つめの質問なんですが、認知症をテーマとして取り上げられてますが、社会福祉士を僕は持っているのですけど、認知って昔の事は思い出すんですけども最近のことはわからない、というのが認知の特徴かと思います。カトウシンスケさんが、「おやじ、(ベランダ)」っていう話をされて最近のことなのにそれをカトウさんが言うというのは、認知を知っていた上で衝動で言ってしまったのか、それとも思い出してほしいという思いなのかを教えてください。

 
奥田監督:ありがとうございます。1つめの和田光沙さんなんですけども、『蒼のざらざら』の名前を出していただきましたけれども、僕も実は制作で入っておりまして、和田光沙さんのお芝居を撮影現場で見ておりました。その時にやっぱりすごく魅力的な女優さんだなと感じまして、ずっとご一緒したいというのを和田さんともよくお話をしていました。僕が時間をかけて映画を撮っていくというのもありまして、なかなか機会なく、今回ほぼ当て書きのような状態で和田光沙さんをイメージして書いてオファーを出しました。
2つめの質問なのですが、私も事故のことで、今まで他人事と思っていた老老介護という言葉が自分の中に入ってきました。それと合わせて、叔父が認知症なのですが、つい最近のことを、例えば「昨日巨人勝ったな」とか言って、今日は普通なのかなと思ったら、次には過去のことを話し始めたり。「屋根いつ直そうかな」と言ったのに、「屋根なんか壊れていないじゃん」と言ってみたり。そうしたことがあって….。質問にお答えすると、あそこで父親に聞いたというのは、両方あると思うのですが、たぶんずっと“孝秋”が持ってきたものがあそこで衝動的に出たのだと思っています。
 
Q:最後まで、結末がわからなくてドキドキしながら大変良かったです。質問は私の個人的な受け取り方なのですが、子供の目線がすごく怖くて、「実はすべて知っているんだぞ」というような感じに受け取りました。監督の演出意図があれば教えていただきたいです。

 
奥田監督:まさに今回の演出で自分がテーマに置いていたのは視線とか目線で、“相太”という子役の子どももそうですし、最初に“孝秋”が窓から見ているカットから始まって、そこから見る者と見られる者を意識しながらやっていまして。最後の鉄工所シーンでは、見る側の”孝秋“が見られる側になっていたり、その逆さまになっていたり。そうしたことを意識して撮っていましたので、そういうふうに感じていただけたのであれば、嬉しいです。
 
石坂SP:“相太”役の彼はすごくしっかりした役者さんというか、子役というよりもしっかりしておられますが、どのような演技指導といいますかアドバイスをしながらあの役を作っていったのでしょうか?
 
奥田監督:今回、唯一オーディションをしたのが、“相太”役の太田琉星君でした。まずオーディションの段階から太田君はすごく面白くて。オーディションの中で、「好き」というのを言葉を使って表わすのと、言葉を使わないので表わすのをやってもらい、「嫌い」も言葉を使うのと使わないので表わしてもらったのですが、みんなやはり大好きというような感情表現をする中で、彼だけが真逆のことをやったんですね。好きというときに好きじゃないしということをやったり。そういうところはすごく面白かった。オーディションの中で、彼はすごく視野が広かったんですよ。コロナ禍で、感染者数が増えてきたときにオーディションをやったので、一緒にオーディションを受けた子が本当はそっちの席に戻らなきゃならないのに、間違ってこっちに緊張して戻ってきたら、ちゃんと自分で距離をとって離れたりと、そうした視野の広さをもっていて、そういうところが面白いなと思ってキャスティングしました。
現場でも、彼が脚本を読んで作ってきた演技プランというものの前に、どうしても子役らしいというか、子どもというのは子役らしい演技を最初はやってしまうものですが、「このシーン、琉星はそういうふうにやろうと思っていたの?」と聞くと、「いや、本当はこうしようと思っていた」と言うので、「じゃ、それをやってみようか」と言うと、みなさんが見ていただいたような、すごく裏に色々持っていそうな演技をしてくれたので、現場では琉星プランでいこうということになりました。

 
Q:音楽についての質問です。劇伴音楽を3箇所ぐらいしかお使いになっていなかった。フラッシュバックというかモンタージュというか、とてもインパクトのあるところで3箇所ぐらいに絞って音楽をつけていらしたと思うんですが、もっとエモーショナルに盛り上げようと思えば、もっと音楽をつけられたと思うのですが、そこをあえて抑えた意図とか、劇伴音楽を使うにあたってのこだわりとか、本作に関してそういうところがあれば教えてください。
 
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©2021 TIFF

 
奥田監督:ありがとうございます。脚本の段階ではもう少し音楽が入るかな、と正直僕自身も思ってはいたんですけども、やはりカトウシンスケさんはじめ、吉行和子さん、高橋長英さん、和田光沙さん、本当に素晴らしいキャストの方々が集まっていただいて、監督としては「このセリフ、こう言うんだろうな」とか「ここでこういう表情するんだろうな」というのを現場ですごい超えて来まして。やっぱりそういったものに過剰に音楽をつける必要はないな、という風に編集段階ですごく思いまして。仰るように、本編の中では3~4か所ぐらい、抑えて抑えて、というのを心掛けました。
 
Q: “孝秋”の職業で、鉄工所の多分溶接みたいなことをやられていると思うのですが、あの仕事は最後の花を焼くっていうことから逆算した職業なのでしょうか?それとも元々鉄工所で働いていて、後で花を焼く、という設定に後付けしたのか、どちらなのでしょうか?
 
奥田監督:仰るように最後に花を焼く、という逆算からではあるんですが、鉄工所って僕も脚本を書く前に鉄工所を色々見させていただいて、人間の手では運べないような重たい鉄、人間の手では曲げられないような、切れないような鉄、そういった大きくて重たいものを溶接してくっつけたりとか、切ったりとかするよう作業をする場所なんですけども、やっぱりそれがもしかしてこの本編の中での“孝秋”がやっていることというか、もしかしたら人の手では曲げられないこととか、そういったことにリンクしてくるんじゃないかな、という風なことを思いまして。“孝秋”自身が鉄工所で手の汚れを気にしているとか、そういったことも鉄工所で働く人ってものすごく手の汚れを気にしていたりとかするので、そういったところがすごく今回の“孝秋”にものすごくはまったので、今回この鉄工所で働くという設定にしました。
 
石坂SP:今、「花」って言葉が出ましたけども。そういえばタイトルですね、これ、割合最初からすっと決まったのか、あるいは色々考えてこうなったのか、その辺りどうなんでしょう?
 
奥田監督:結構悩みまして。最初は全然別のタイトルだったんですけども、ちょっと一部で評判が悪くて、その中で考えて考えて…この「誰かの」っていう一見すごく無責任な言葉ではあるんですけども、そこから段々と当事者になっていく、「誰かの」というのがもしかしたら「私の」なのかもしれない、という風になっていって欲しいな、という想いでこのタイトルを付けました。
 
石坂SP:本作は12月18日から企画・制作のシネマ・ジャック&ベティさんで先行上映がございます。そして来年の1月29日から全国順次公開ということです。よろしくお願いします。

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