2021.11.03 [インタビュー]
TIFF公式インタビュー「この映画は、過去の自分を振り返る、日記帳のような作品です」シン・スウォン監督:コンペティション部門『オマージュ』

東京国際映画祭公式インタビュー 2021年10月31日 
オマージュ
シン・スウォン(監督/プロデューサー/脚本)
公式インタビュー

©2021 TIFF

 
スランプ気味だった女性映画監督、ジワンが受けた仕事は、韓国の女性監督が1960年代に撮った『女判事』を修復する作業だった。素材は一部音声とシーンが欠落していた。素材を探す修復作業は、その女性監督の苦難の半生を明らかにしていく――。『虹』で2010年東京国際映画祭最優秀アジア映画賞に輝いたシン・スウォンの新作は、女性映画監督の先達へのオマージュだ。『パラサイト/半地下の家族』のイ・ジョンウンが主人公を演じている。
 
――この作品は監督ご自身の体験をもとにしているのですか?
 
シン・スウォン(以下、シン監督):このような質問をよくいただきます。4分の1くらいは私の経験に基づいていますが、残りの部分についてはすべて私が創作したものになります。
 
――女流監督の先達の設定も、お考えになったものですか?
 
シン監督:映画に登場する先輩の女性監督たちは、いずれも実在の方です。私が10年くらい前に、テレビ用のドキュメンタリーを撮ったときに、彼女たちの取材をしました。映画にも出てくる韓国初の女性映画監督パク・ナモク、もうひとりが『女判事』を手がけたホン・ウノンでした。
当時、すでにホン・ウノンは亡くなられていました。いつかこの方たちを映画として撮りたいという考えを持ち続けて、2019年にシナリオを書き始めました。いずれも実在の方をモチーフにはしていますが、内容は私の創作です。
 
――当時の取材が生きたわけですね。
 
シン監督:10年前にインタビューした時には、ホン・ウノンの娘さんのお話も聞けましたし、プライベートでも親交のあった編集スタッフへの取材内容や、ホン・ウノンのインタビュー記事も参考にしました。
 
――実際に映画の復元のお仕事をなさったことがありますか?
 
シン監督:実は、復元作業という設定は私が創作して入れた部分でした。テレビのドキュメンタリーの内容を映画に反映するよりも、色々なものを想像して加えていきました。そのひとつが、古い映画を復元するという作業でした。10年前にインタビューをした頃は、映画に出てくる『女判事』のフィルムは見つかっていませんでした、後になってからフィルムが寄贈されたことを聞いて、フィルムを探しにいく物語を加えることになりました。それでもフィルムの3分の1ぐらいは発見されていません。
 
――なるほど。挿入されている『女判事』の映像はオリジナルなのですか?
 
シン監督:映画に出てくる『女判事』のほとんどの場面は、実際のフィルムを使わせてもらいました。ただし、最後のエンディングで登場する映像は、本来の映画にはない部分です。私を含めスタッフで作り上げたシーンですね。実際のフィルムは韓国の映像資料院フィルムアーカイブが協力してくれました。
 
――主人公の鬱屈とした思いは、監督ご自身を反映されている印象です。
 
シン監督:昔の私の姿が、かなり反映されていると思いますね。私は2010年に『虹』という作品を撮って東京国際映画祭に参加し、それから10年経って、この作品が私にとって6本目の作品になります。それでも次の作品を撮れるだろうかという不安が常にありました。ただ単に私が女性だからというふうには考えないようにしていました。作品を撮ると必ず自分を証明しなければいけないような気持ちでした。
今は昔に比べると、不安はかなり減りました。『オマージュ』は私が過去の自分の時間を振り返る日記帳のような映画だと思います。また次も撮れるかなという不安はあります。特にコロナの状況になってからその不安がどんどん強くなってきました。
 
――家族の絆がとてもリアルでユーモラスでしたが、これも実際の姿の反映なのですか?
 
シン監督:一部はあると言えますね。ただ、私は映画の中のように夫のポケットからお金をとったりはしません。できるだけ戯画化して面白く人物を変えてみました。
 
――キャスティングが素晴らしく成功していると思いました。
 
シン監督:実は、イ・ジョンウンの存在を知らなかったのですが、韓国で俳優/監督として知られるキム・ユンソクの『未成年』でみごとな演技を見せました。その後、ポン・ジュノの『パラサイト 半地下の家族』でも本当に素晴らしい演技を披露しましたね。彼女の演技を見て、一緒に仕事をしたいと思いました。
『オマージュ』のシナリオを書き上げてからシナリオを送ったところ、忙しくてもやりたいと返事をくれました。現場でも本当に人柄が良くて、たくさんの話をしました。私が考えていたジワンというキャラクター以上のものを作ってくれたと思います。
公式インタビュー
 
――昔の音楽を挿入されて効果的でした。その辺りは意識されていましたか?
 
シン監督:私はもともと音楽はあまり使いません。ピアノ曲が中心で、レトロな雰囲気が感じられる、過去を思い出させるような曲をリクエストしました。挿入曲は、私が以前聞いたものの中で、作品に合うと感じた曲でした。「イタリア庭園」と「青春階級」という二曲を、明洞の喫茶店で流れる曲として使いました。
失われたフィルムの映像で使われた曲は、やはりレトロな雰囲気が感じられるもの、アコーディオンなどを使って昔風の曲を作ってくださいとお願いしました。エンディング曲は、バッハの曲をピアニストに演奏してもらいましたが、かなり費用がかかりました。
 
――映画の中で、廃墟と化した大きな映画館が印象的でした。韓国の映画状況を示しているような気がしましたが、意図されていましたか?
 
シン監督:アイロニーと言えると思いますが、私がこのシナリオを書いたのはコロナ禍前でした。コロナ禍の影響によって映画館が閉鎖されるような状況になっています。以前、ドキュメンタリーを撮っている時に映像として必要だったので、釜山にある廃墟と化した映画館を使ったことがありました。現在は古い映画館ほとんどなくなり、映画に出てくるように映写技師がエロ映画をかけて、細々と収入を得ているという状況が現実なのです。釜山で見つけた映画館のことを思い出して、映画の中に反映させてみました。韓国の原州(ウォンジュ)に古い映画館を見つけて使わせてもらうことにしました。そこには映写室はありましたが、35ミリがかけられる映写機がなかったのです。映写機を購入するためにまた予算を超過してしまいました。
 

インタビュー/構成:稲田隆紀(日本映画ペンクラブ)

 
 
第34回東京国際映画祭 コンペティション部門
オマージュ
公式インタビュー

©2021 JUNE Film. All Rights Reserved.

監督:シン・スウォン

オフィシャルパートナー