2021.11.06 [イベントレポート]
田中泯「その場所にしかない踊り」をカメラにおさめ、“再生”した犬童一心監督に感謝
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舞台挨拶に立った田中泯

第34回東京国際映画祭の「Nippon Cinema Now」部門に出品された『名付けようのない踊り』が11月6日、東京・角川シネマ有楽町で上映され、世界的ダンサーであり俳優でもある田中泯、犬童一心監督がQ&Aに登壇した。

1978年にパリデビューを果たした田中は、世界中のアーティストと数々のコラボレーションを実現し、ダンスの公演歴は現在までに3000回を超え、『たそがれ清兵衛』(2002)から始まった映像作品への出演も、ハリウッドからアジアまで広がっている。そんな独自の存在であり続ける田中のダンスを、親交のある犬童監督が撮影。また、山村浩二のアニメーションによって、田中の幼少期が情感豊かに点描され、ぶれない生き方を紐解く。

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田中と犬童監督の出会いは、『メゾン・ド・ヒミコ』(05)にさかのぼる。犬童監督は出演交渉のため、山梨で農業に取り組んでいた田中を訪れた際に、忘れられない言葉をかけられたという。「シナリオは気に入ってくださっていたんですが、泯さんに「僕は演技ができません」と言われたんですね。「演技ができないが、それでもいいか」と聞かれたあとに、「ただ撮影する場所に一生懸命居ることはできるから、それで良いんだったらできます。それが、ダンスでやってきたことだから」とおっしゃったんです。その言葉がずっと自分のなかに残っていて、『メゾン・ド・ヒミコ』の後に泯さんのダンスを見るようになるんですが、そのときの言葉の意味を確かめたいという気持ちがあったんですね」と振り返る。

その後、田中が出演する公演の開催地であるポルトガルに同行。最初は映像を作品にする想定ではなかったそうだが、犬童監督は「そこで踊りを撮った結果、(泯さんの)言葉と自分の疑問を、作品のなかで確かめてみようかなと思ったんですね」と、製作の経緯を述べた。田中は、自身の踊りが映像化されたことについて、犬童監督に感謝を伝える。

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田中「私は映像のために踊ったつもりはなくて、その場所、その場所で踊っていた踊りは、その場所のためのもの。そこで私がキャッチしたものというか。その踊りを見てくださった犬童さんが、その踊りを再生してくださった。ここがいちばん大事だと思っています。ビデオテープが生まれた頃から、踊りを記録されてきたんですが、一度として、踊ったときの感覚に戻れた試しがないんですね。踊ったときの私の体に押し寄せてくる、体が感じ取ったさまざまな物事は、映像になると消えてしまいます。同じ踊りを同じようにして流すことに、むしろ嫌悪さえ抱いていたんです。しかし犬童さんは、私の踊りを、皆さんが惹きつけられるように、釘付けになるように再現してくださったんです」

田中の踊りをカメラにおさめた犬童監督は、「本作は踊りをいっぱい撮影していって、脚本を書いて、編集しています。「こういう風にしよう」と思って撮ることはせず、インタビューもせず、とにかく行って踊りを撮る、ということをしていました」と述懐。さらに、田中の踊りを「メタモルフォーゼ」という言葉で表現する。

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犬童監督「映像で泯さんの踊りを長時間見ていて、泯さんの踊りはどのように作られていっているのか、自分なりに考えてみたんです。僕は映画をやっているから、ストーリーというものに対してどう考えるか、という視点があるんですが、泯さんの踊りはイマジネーションが連なってはいますが、僕のなかでは、メタモルフォーゼしているという感覚がすごく強いんですね。泯さんのなかでイマジネーションが変形している面白さを感じるんです」

最後に観客から、「劇中では多様な時間の重要性が語られていました。犬童監督が映像を編集するときに、時間について意識されたことは?」という質問が寄せられた。犬童監督は1本の映画のなかで、「泯さんの踊りを見に行って、その場所から帰ってくる」という一連の時間を表現したかったと回答。さらに、田中のなかに流れる時間についても発見があったそう。

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「この撮影を通して長い時間、泯さんを見たことで気付き、構成のなかで意識したのは、(泯さんは)ものすごく時間をかけて、物事を進めている方だということですね。例えば「ダンスを踊るために農業をする」というやり方が、ものすごく時間をかけている、ということなんです。「ダンスのために訓練して体を作って踊る」という考えはせずに、「まず農業をして、そこで生まれた体で踊る」という時間のかけ方をされている。その部分を、ものすごく尊敬しています。効率で進めるのではなく、時間をかけないと生まれないものの輝きや重さを感じました」

第34回東京国際映画祭は11月8日まで、日比谷、有楽町、銀座地区で開催。
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