2021.11.04 [インタビュー]
TIFF公式インタビュー「映画にとって良いことであれば、シナリオも大幅に変更すべきだと思います。」野原 位監督:コンペティション部門『三度目の、正直』

東京国際映画祭公式インタビュー 2021年10月29日
三度目の、正直
野原 位(監督/脚本)
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©2021 TIFF

 
パートナーとの生活に空しさを感じ、養子縁組をしてでも子供を欲しがるヒロインに、パートナーは別れを告げる。さらにヒロインの弟のラッパーと妻を交えた家族の前に記憶喪失の青年が現れ、それぞれの秘めた思いが神戸という街に波紋を生じ、交錯していく。黒沢清の『スパイの妻』や濱口竜介の『ハッピーアワー』で共同脚本を務めた野原位の記念すべき劇場映画デビュー作。『ハッピーアワー』の川村りらが主演、脚本にも協力した。
 
――従来の撮影とは違う手法で作品が製作されたとお聞きしました。
 
野原位(以下、野原監督):もともとは違うシナリオがあり、撮影予定でしたが、諸事情で話を大きく書き直しました。そこから、演じてもらう中で思ってもいない良い部分が出てくると、共同脚本の川村さんと相談して、撮影しながらシナリオを書くスタイルに最終的にはなりました。
 
――そもそも立ち上げたシナリオもご自身でお書きになったのですね?
 
野原監督:そうですね。最初から共同脚本の川村さんとふたりで書いていました。どうして変えたかというと、このままでは劇場公開はまずい、改善するとなると、大きく直さなくちゃいけない。映画製作をしていると、「これをちゃんと編集してつなげれば映画になる」という手応えみたいなものがありますが、それがなかなか得られなかった。どこに問題があるのか考え、選んだのはシナリオを180度違うものに変えることでした。結果的にはとてもいいシナリオになりました。
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――撮影でコロナ禍の影響はありましたか。
 
野原監督:撮影はギリギリ、コロナ禍前でした。ただ、逆にコロナ禍でガラッと変わった世界で、コロナ禍以前に撮った映画をどう受け取られるのかが心配でした。マスクが日常の世界で、映画はコロナのない世界なので、現実とちょっと乖離したものになったら嫌だなと思いました。コロナの状況も日に日に変わっていきましたし、長い年月が経ったときに観客によってどう見られていくのかというのは興味があります。
 
――俳優とともにそれぞれのキャラクターを生み出したとお聞きしました。ストーリーの到達点は最初から決めていたのですか?
 
野原監督:ある程度は決めてはいました。たどり着くための筋道みたいなものは、撮りながら修正をしていきました。最適なのは完璧なシナリオができることですが、撮りながらシナリオが更新されることがやっぱり必要だなと、今の僕は感じていますね。
 
――これまで脚本家として、濱口さんや黒沢さんに脚本を委ねると、変更されることも納得された。脚本家としては、脚本通りに撮影された方が嬉しくはないのですか?
 
野原監督:黒沢さんは学校の先生だし、濱口さんも学校の先輩なので気心は分かっています。専門学校の監督コースに通っていたので、脚本家よりは監督を目指していました。脚本通りに撮ってほしいというよりは、最終的に出来上がる映画が面白ければいい。それが映画にとっていいことなのであれば、大幅な変更はすべきだと思います。本作でもそうしました。ただ、黒沢さんも濱口さんも、僕が書いたものを尊重してくださいました。
 
――初めての劇場用映画ということで特に意識されたことはありますか?
 
野原監督:ありがたいことにプロデューサーのおかげで、自由にやらせていただけました。コロナで、いろいろと止まってしまう状況でもあり、編集も何度も何度も練ることができました。
 
――これまで監督された作品と劇場用作品、その差は何ですか?
 
野原監督:濱口監督と黒沢監督の脚本を経験したことが大きいと思います。何かしら、観客が見たことのないものを描きたいと強く思っていました。見たことのないようなエモーショナルなシーンも生み出せました。少しでも観客に新しいものを提示するということを、前よりも意識しています。
 
――キャスティングに関しては、ご苦労はありましたか。
 
野原監督:キャスティングに関しては、濱口さんの『ハッピーアワー』に出ている方を軸にお願いしました。『ハッピーアワー』で半年ほどワークショップをやり、それから撮影が8か月ぐらいありました。その間に親密な関係になりました。
 
――撮影で一番苦労された部分というのは、何だったのですか?
 
野原監督:それはシナリオを書きながら撮影をすることでした。一週間撮影して、一週間休みで、一週間撮影して、みたいなスケジュールでした。休みの時にシナリオを書くのですが、それでも追いつかないので、撮影後に、川村りらさんと夜遅くまでシナリオを書きました。彼女は体力的にはしんどかったと思います。
 
――話が変貌していき、それに撮影を合わせる手法が面白かったのですね?
 
野原監督:面白かったし、少し怖くもありました。スリルがありましたね。明日、撮影がうまくいかなかったらどうしよう、みたいな恐れはありましたが、以前からつながりのあったスタッフやキャストを信頼して、楽観的に自分を保ちながら演出していた気はします。本当に、スタッフと出演者の皆さんには感謝しかないです。幸せな環境で撮らせていただきました。
 
――これまでプロデュースをして、脚本も執筆されましたが、でもやはり監督でありたいのですね?
 
野原監督:監督でありたいとも思いますが、どの仕事もそれぞれ面白さはあるので、機会があればどの仕事でもやってみたい気持ちはあります。ただ『三度目の、正直』を撮って、まだやり残した気持ちがあるので、監督は続けていきたいですね。
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――そもそも映画に進むきっかけとなった作品があれば教えてください。
 
野原監督:子供のころは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を観て、映画って本当に面白いと思いました。それから映画の専門学校で濱口さんと出会い、濱口さんが卒業制作で撮った短編『はじまり』を手伝ったのは大きかったですね。映画を志すきっかけになりました。海外ではクリント・イーストウッドの『ミスティック・リバー』かな。『ヒア アフター』もよかった。黒沢さんの作品はもちろんです。大きく影響を受けました。
 
――新作のご予定は?
 
野原監督:構想はあります。映画を監督できる体力があるうちに、でここ10年くらいの間は何とか頑張りたいという気持ちです。それもすべて、『三度目の、正直』の評価次第ですね。
 

インタビュー/構成:稲田隆紀(日本映画ペンクラブ)

 
 
第34回東京国際映画祭 コンペティション部門
三度目の、正直
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監督:野原 位

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