2021.11.01 [イベントレポート]
『ムーンライト・シャドウ』エドモンド・ヨウ監督、小松菜奈キャスティングの必然性を説く
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エドモンド・ヨウ監督(右)とモデレーターの市山尚三


ムーンライト・シャドウ』のエドモンド・ヨウ監督が参加した、第34回東京国際映画祭の「TIFFトークサロン」が11月1日、東京・有楽町のBASE Qで開催された。

東京国際映画祭とゆかりの深いヨウ監督。2010年には、ヨウ監督がプロデュースし、第63回カンヌ国際映画祭でプレミア上映された『タイガー・ファクトリー』が、第23回東京国際映画祭の「アジアの風」部門で披露された。14年の『破裂するドリアンの河の記憶』、17年の『アケラット ロヒンギャの祈り』はともに同映画祭のコンペティション部門に出品され、後者で最優秀監督賞を受賞している。

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本映画祭では、吉本ばなな氏の短編小説を映画化し、小松菜奈と宮沢氷魚が共演した監督作『ムーンライト・シャドウ』が、「Nippon Cinema Now」部門で上映される。主人公のさつき(小松)が、恋人・等(宮沢)を事故で亡くし、満月の夜の終わりに死者と再会できるという「月影現象」を通して、悲しみを乗り越えようとするさまを描いた。ヨウ監督は最初に、『ムーンライト・シャドウ』映画化のきっかけを語った。

「私は2008年から13年に早稲田大学に留学して勉強していたのですが、そのときに日本文学をたくさん読みました。川端康成さん、三島由紀夫さんの古典文学から、今日の村上春樹さん、吉本ばななさんの作品も。最初に読んだ吉本さんの作品「キッチン」に、非常に強い印象を抱き、「キッチン」以外にも著作を読んでファンになりました。2年前にプロデューサーの方から「ムーンライト・シャドウ」映画化のお話を頂きまして、「ぜひやりたい」と答えました。私の作品は、日本文学の影響を非常に受けていて、学生時代に初めて撮った短編作品は、川端康成さんの文学にインスパイアされています。ですので、お話を頂いたときは、まるで自分が吉本さんの作品を読み始めた頃に戻ったような感慨があり、運命だと感じました」

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さらに、小松のキャスティング理由について問われ、ヨウ監督は「この作品のお話を頂いた時に、「ぜひ小松さん主演で作りたい」と思いました。彼女のことは、デビュー作『渇き。』から見ていて、その繊細な演技に感銘を受けました。それ以降の作品も見て、いろいろな役を器用に演じ分けられることも分かりました。実際に彼女にオファーをしてみて、一緒に仕事ができるというお返事を頂き、嬉しかったです。さつきは小松菜奈さんでなくてはならなかったんです」と、強い思いがあったことを明かす。宮沢に関しては、「等は途中でいなくなってしまいますが、非常に重要な役どころ。YouTubeで「等役の役者さんは、どんな方が良いんだろう」とリサーチをしたときに、今泉力哉監督の『his』の予告編を見て、ぜひ宮沢さんにやって頂きたい」と思いました」と振り返った。

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映画のラストシーンの描写は、原作とは異なっている。ヨウ監督は、その点に関しても解説を加えた。

「この映画のなかでは原作にないことがたくさん起こります。最後の等の登場シーンも、原作通り手を振っている姿と、その場でほほ笑みながら佇んでいる姿の2パターンを撮影しました。撮影後に見ていくなかで、さつきの記憶のなかで、等は恐らくほほ笑んでいるだろうと思ったので、後者の方が強い印象を残しました。原作の映画化は非常に難しい問題だと思います。大好きな本なので、原作にあるものをそのまま移し替えたいと思っていましたが、自分は、原作のエモーション、スピリットを忠実に再現しようと取り組みました」

最後にヨウ監督は、「ここ最近は日本の漫画や本をたくさん読んでいて、次の作品のことを考えています。吉本ばななさんにも、今回の映画を気に入って頂けたので、またいつか吉本さんの作品に取り組むことができればと思います」と、今後の展望についても述べた。第34回東京国際映画祭は11月8日まで、日比谷、有楽町、銀座地区で開催。
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