取材に応じた𠮷田恵輔監督
10月30日に開幕する第34回東京国際映画祭では、𠮷田恵輔監督の特集上映が展開される。自身のオリジナル脚本で挑んだ最新作『
空白』と、『
ヒメアノ~ル』(2016/森田剛主演)、『
BLUE ブルー』(21/松山ケンイチ主演)を引っさげて参加する𠮷田監督に話を聞いた。
本映画祭では、昨年まで「Japan Now」部門として現在の日本を代表する邦画作品を紹介してきたが、今年から「Nippon Cinema Now」部門と名称を改め、より多様性に富んだ邦画作品を紹介。そのなかでも今一番海外へ紹介したい映画人として、これから世界に打って出る新たな才能に焦点をあてる形で特集を組む。
特集上映が決定した際、𠮷田監督は「映画監督を目指して頑張っていた頃、東京国際映画祭は客として観に行くものでした。そこで自分の作品が上映されるとは夢にも思わなかったです。これは夢が叶ったと言っていいですよね? 嬉しくて泣いてます。しかも特集上映とは嬉しくてお漏らししてます」とコメントを寄せている。
𠮷田監督「記憶にあるのは、まだ渋谷がメイン会場だった1999年に渋谷公会堂での上映を、塚本(晋也監督)組の先輩たちと一緒に観に行ったんです。その後、2013年(第26回)に塚本組の後輩だった坂本あゆみちゃんが作った『FORMA』という映画を、やはりみんなで観に行って、その後に食事に行ったりしましたね」
上映される3作品に関して、𠮷田監督は意外そうな面持ちを浮かべる。そして、映画祭を訪れる観客に興味があるという。
𠮷田監督「映画祭サイドから「特集の3本で何を上映するかは考えているけれど、何か意見があれば」と聞かれたので、お任せしますと答えました。映画祭で何を上映するのかについて、俺が意見をすべきじゃないですよね。選んでくれた人が好きなものをチョイスしてくださいと。そうしたら、割と近年のものになりましたね。これまで、トークイベントとかは数多くやってきているので、一般のお客さんの反応は知っているんですよ。ただ、東京国際映画祭に映画を観に来るお客さんがどういう客層の方々なのか知らないから、そこを知りたいんです。どういう気持ちで観るんだろう?って。俺からは、「教えて!」という一心ですね」
長編作で括ると、06年の『机のなかみ』がスタート地点。そこから15年という年月で手掛けてきたのが11本。オリジナル脚本はもちろん、漫画原作の映画化も撮ってきたが、通底しているのは唯一無二の作家性を挙げられることが出来る。15年前の自分に対して言葉を投げかけるとしたら、どのようなメッセージをおくるだろうか。
𠮷田監督「15年は生きているよってことですかね。俺はとにかく映画監督になることだけを目指してやってきて、デビューした時は心のどこかで『これは一生に一度の晴れ舞台』だと思っていたんです。落選続きの人生だったので、こんなチャンスは神様も二度と与えてくれないだろう、レイトショー上映でそんなに多くない人が観てくれて、それで終わるんだろうなと思っていました。そこから何とか繋いで11本撮れて、15年間も映画監督としてやっていけている。とにかく映画監督で居続けることが目標だった。映画監督という肩書が、俺からなくなることの恐怖しかなかったので……。それについては、ちょっと安心しているんです。ここまでやってこられたのなら、これからも何とかやっていけるんじゃないかって。ただ、その一方で『これだけやれたのなら、もういいんじゃないか?』という気持ちもあるんですよ。もちろん、まだまだやる気はありますけど、人間何があるか分からないじゃないですか。20代は本当に地獄だったけれど、いまは余生を過ごしているような感覚を抱くほど良い思いをさせてもらっていますから」
本映画祭でも上映される最新作『空白』は『新聞記者』『MOTHER マザー』『ヤクザと家族 The Family』など意欲作を次々と生み出してきたスターサンズの河村光庸プロデューサーとタッグを組んだ意欲作。人と人のつながりや家族の絆、メディアの正体を浮き彫りにしながら、「何が本当なのか?」「誰が正義なのか?」など思わぬ方向に感情が増幅してしまう危険性をはらんだ現代社会を映し出しており、古田新太と松坂桃李の対峙も大きな話題を呼んでいる。既に撮り終えている新作はオリジナル脚本作だというが、オリジナルにこだわっているわけではないという。
𠮷田監督「俺自身が面白いと思えるものしかやりたくないだけなんですよ。映画化したい作品の原作者に会うときも、『俺よりも上手な監督はたくさんいると思うけど、俺よりもこの原作を好きな人とは出会わないと思いますよ』と口説くところから始めています。プロポーズと一緒ですよね。俺より稼げる人はいるだろうけど、俺ほど愛せる人はいないから……と言っているのと同じ。原作ものをやるって、そういうこと。こだわりはないんだけど、そういう原作とはそんなにたくさん出合えていないだけ。いま準備しているのは、『空白』の姉妹作みたいなもの。『空白』よりもしんどい、きついものをやろうかなと。『空白』のレビューを見ていると“激重”とか書かれているのに、これ以上重いものを作って大丈夫だろうか(笑)。今の若い世代って耐久力がそんなにないですよね。俺たちの世代は、きついものを楽しんで味わいに行くけど、若い子たちが耐えられる痛みは自分の経験したことのあるレベル。我ながら底意地が悪いなと思うけれど、そういう重めのものばかり撮りたくなっちゃうんだよね」
第34回東京国際映画祭は、10月30日~11月8日に日比谷、有楽町、銀座エリアで開催される。
取材に応じた𠮷田恵輔監督
10月30日に開幕する第34回東京国際映画祭では、𠮷田恵輔監督の特集上映が展開される。自身のオリジナル脚本で挑んだ最新作『
空白』と、『
ヒメアノ~ル』(2016/森田剛主演)、『
BLUE ブルー』(21/松山ケンイチ主演)を引っさげて参加する𠮷田監督に話を聞いた。
本映画祭では、昨年まで「Japan Now」部門として現在の日本を代表する邦画作品を紹介してきたが、今年から「Nippon Cinema Now」部門と名称を改め、より多様性に富んだ邦画作品を紹介。そのなかでも今一番海外へ紹介したい映画人として、これから世界に打って出る新たな才能に焦点をあてる形で特集を組む。
特集上映が決定した際、𠮷田監督は「映画監督を目指して頑張っていた頃、東京国際映画祭は客として観に行くものでした。そこで自分の作品が上映されるとは夢にも思わなかったです。これは夢が叶ったと言っていいですよね? 嬉しくて泣いてます。しかも特集上映とは嬉しくてお漏らししてます」とコメントを寄せている。
𠮷田監督「記憶にあるのは、まだ渋谷がメイン会場だった1999年に渋谷公会堂での上映を、塚本(晋也監督)組の先輩たちと一緒に観に行ったんです。その後、2013年(第26回)に塚本組の後輩だった坂本あゆみちゃんが作った『FORMA』という映画を、やはりみんなで観に行って、その後に食事に行ったりしましたね」
上映される3作品に関して、𠮷田監督は意外そうな面持ちを浮かべる。そして、映画祭を訪れる観客に興味があるという。
𠮷田監督「映画祭サイドから「特集の3本で何を上映するかは考えているけれど、何か意見があれば」と聞かれたので、お任せしますと答えました。映画祭で何を上映するのかについて、俺が意見をすべきじゃないですよね。選んでくれた人が好きなものをチョイスしてくださいと。そうしたら、割と近年のものになりましたね。これまで、トークイベントとかは数多くやってきているので、一般のお客さんの反応は知っているんですよ。ただ、東京国際映画祭に映画を観に来るお客さんがどういう客層の方々なのか知らないから、そこを知りたいんです。どういう気持ちで観るんだろう?って。俺からは、「教えて!」という一心ですね」
長編作で括ると、06年の『机のなかみ』がスタート地点。そこから15年という年月で手掛けてきたのが11本。オリジナル脚本はもちろん、漫画原作の映画化も撮ってきたが、通底しているのは唯一無二の作家性を挙げられることが出来る。15年前の自分に対して言葉を投げかけるとしたら、どのようなメッセージをおくるだろうか。
𠮷田監督「15年は生きているよってことですかね。俺はとにかく映画監督になることだけを目指してやってきて、デビューした時は心のどこかで『これは一生に一度の晴れ舞台』だと思っていたんです。落選続きの人生だったので、こんなチャンスは神様も二度と与えてくれないだろう、レイトショー上映でそんなに多くない人が観てくれて、それで終わるんだろうなと思っていました。そこから何とか繋いで11本撮れて、15年間も映画監督としてやっていけている。とにかく映画監督で居続けることが目標だった。映画監督という肩書が、俺からなくなることの恐怖しかなかったので……。それについては、ちょっと安心しているんです。ここまでやってこられたのなら、これからも何とかやっていけるんじゃないかって。ただ、その一方で『これだけやれたのなら、もういいんじゃないか?』という気持ちもあるんですよ。もちろん、まだまだやる気はありますけど、人間何があるか分からないじゃないですか。20代は本当に地獄だったけれど、いまは余生を過ごしているような感覚を抱くほど良い思いをさせてもらっていますから」
本映画祭でも上映される最新作『空白』は『新聞記者』『MOTHER マザー』『ヤクザと家族 The Family』など意欲作を次々と生み出してきたスターサンズの河村光庸プロデューサーとタッグを組んだ意欲作。人と人のつながりや家族の絆、メディアの正体を浮き彫りにしながら、「何が本当なのか?」「誰が正義なのか?」など思わぬ方向に感情が増幅してしまう危険性をはらんだ現代社会を映し出しており、古田新太と松坂桃李の対峙も大きな話題を呼んでいる。既に撮り終えている新作はオリジナル脚本作だというが、オリジナルにこだわっているわけではないという。
𠮷田監督「俺自身が面白いと思えるものしかやりたくないだけなんですよ。映画化したい作品の原作者に会うときも、『俺よりも上手な監督はたくさんいると思うけど、俺よりもこの原作を好きな人とは出会わないと思いますよ』と口説くところから始めています。プロポーズと一緒ですよね。俺より稼げる人はいるだろうけど、俺ほど愛せる人はいないから……と言っているのと同じ。原作ものをやるって、そういうこと。こだわりはないんだけど、そういう原作とはそんなにたくさん出合えていないだけ。いま準備しているのは、『空白』の姉妹作みたいなもの。『空白』よりもしんどい、きついものをやろうかなと。『空白』のレビューを見ていると“激重”とか書かれているのに、これ以上重いものを作って大丈夫だろうか(笑)。今の若い世代って耐久力がそんなにないですよね。俺たちの世代は、きついものを楽しんで味わいに行くけど、若い子たちが耐えられる痛みは自分の経験したことのあるレベル。我ながら底意地が悪いなと思うけれど、そういう重めのものばかり撮りたくなっちゃうんだよね」
第34回東京国際映画祭は、10月30日~11月8日に日比谷、有楽町、銀座エリアで開催される。