取材に応じた橋本愛
写真:間庭裕基
女優の橋本愛が、第34回東京国際映画祭(10月30日~11月8日)のアンバサダーに就任した。何度となくゲストとして参加するだけでなく、いち観客として同映画祭に親しんできた橋本に、前年までの六本木から会場を日比谷、有楽町、銀座にメイン会場を移して開催される同映画祭の楽しみ方を聞いた。
会場移転のほか、17年ぶりのプログラマー交代による部門改変を行った本映画祭。映画館でのフィジカル上映を基本としながら、「コロナを越えたその先の映画の在り方を考えていく」「国際映画祭として『国際』色を高めていく」「男女平等、環境保全などSDGsへ積極的に取り組んでいく」という目的を踏まえながら、今年は「越境」というコンセプトを掲げての開催となる。
橋本は、第27回(2014)のクロージング作品に選出された『寄生獣』(山崎貴監督)で本映画祭に初めて参加した。共演した染谷将太や深津絵里らとレッドカーペットを練り歩き、舞台挨拶にも登壇。その後、第28回の『残穢』、第29回の『うつくしいひと』、第31回の『21世紀の女の子』で参加し、昨年の第33回では「TOKYOプレミア2020」部門で観客賞を受賞した『私をくいとめて』の舞台挨拶に登壇したほか、本映画祭と国際交流基金アジアセンターによる共同トークイベント「アジア交流ラウンジ」で、モデレーターを務める是枝裕和監督とともに韓国映画『はちどり』のキム・ボラ監督とオンラインで語り合ったことは記憶に新しい。
これほどコンスタントに出演作品を携えて本映画祭に参加する女優の存在は稀有で、それにも増して、プライベートでも時間を見つけて上映作品を鑑賞してきたという。そんな橋本にとって、本映画祭で鑑賞したなかで印象深いのは、どのような作品になるか聞いてみた。
橋本:「たくさんご縁があって、ありがたいですね。一番の体験は、第30回の特別招待作品として上映されたアレハンドロ・ホドロフスキー監督の『エンドレス・ポエトリー』です。人生が180度反転したかと思うほど価値観が覆えさせられました。本編中に『愛されなかったからこそ、愛を知ったんだ』というセリフがあるのですが、愛されなくても愛せるんだ……、という希望が見えたんです。それまでの自分の人生を肯定してもらえた気持ちになりましたね」
そして、映画祭の楽しみ方のひとつとして、作品の規模にとらわれず大スクリーンで鑑賞できることを挙げる。
橋本:「自分の行けそうなタイミングに上映される映画って、ご縁じゃないですか。その出合いが面白いし、劇場公開されたらこんなに大きなスクリーンでは観ることが出来ないかもしれないなという規模感の作品も大きな会場で観られる。スクリーンが大きくなれば、スケール感も大きくなりますし、その体験って映画祭の期間中しか味わえなかったりするじゃないですか。それと、コロナ禍でどういう形態になるか分かりませんが、上映後のQ&Aが好きなんです。普段はパンフレットを読むことで補われるものが、監督や役者の肉声で深く知る事が出来るというのはとても楽しいですよね」
メイン会場が、六本木から日比谷、有楽町、銀座に移ることも前向きにとらえているようで「銀座って大規模ではないけれど素敵な映画館が点在していて、私にとっても思い出深い映画館がいっぱいあります。個人的に映画館の場所ってとても重要で、その街に行きたいと思って映画館を選ぶことがあるくらいですから。銀座界隈は日本の伝統文化が根付いている場所だと思うので、そういう場所で映画祭の作品を観るとどう感じられるんだろう……というのが、個人的な楽しみでもあります」
また、昨年から始まった「
アジア交流ラウンジ」には今年も参加する。イラン史上初となる長編クルド映画『酔っぱらった馬の時間』でカンヌ国際映画祭カメラドールを受賞したほか、元「ピンク・フロイド」のロジャー・ウォーターズがプロデュースした最新作『四つの壁』が今回の映画祭でワールドプレミア上映される、バフマン・ゴバディ監督とトークを繰り広げる予定だ。
橋本:「是枝監督が作り手たちの交流する空間を昨年から用意してくださいました。私自身、海外の方というだけで言語の問題もあって壁を感じていましたが、去年は挑戦してみよう! と思ってキム・ボラ監督と対談させてもらいました。そうしたら、こんなに豊かな心の会話が出来るんだなって感じる事が出来て、本当に良い経験になりました」
コロナ禍によって、映画界はもちろん、映画祭の在り方も問われるようになってきている。今年の本映画祭が「男女平等、環境保全などSDGsへ積極的に取り組んでいく」ことを目的のひとつに掲げている点について、表情を和らげて語る。
橋本:「今年の東京国際映画祭は、とにかく例年以上に作品が面白そうなんですよね。それに、映画祭の目的に環境問題や人種差別、性差別といったSDGsについて織り込まれていることが嬉しいですね。現実的な部分で女性の監督が少なかったり、『女性の体は美しくて神秘的だ』という今まで芸術として昇華されていたものが実は誰かを傷つけたいたんじゃないかと疑問を抱き、固定観念を紐解いて考えて来たことが、映画祭のテーマに加わることで、映画が好きな人、映画に関わる人たちの意識が少しずつ変わるんじゃないかなと思います」
第34回東京国際映画祭は10月30日~11月8日、日比谷、有楽町、銀座地区で開催される。オープニング作品『
クライ・マッチョ』(クリント・イーストウッド監督)で幕を開け、クロージング作品には『
ディア・エヴァン・ハンセン』(スティーブン・チョボウスキー監督)が控えている。
取材に応じた橋本愛
写真:間庭裕基
女優の橋本愛が、第34回東京国際映画祭(10月30日~11月8日)のアンバサダーに就任した。何度となくゲストとして参加するだけでなく、いち観客として同映画祭に親しんできた橋本に、前年までの六本木から会場を日比谷、有楽町、銀座にメイン会場を移して開催される同映画祭の楽しみ方を聞いた。
会場移転のほか、17年ぶりのプログラマー交代による部門改変を行った本映画祭。映画館でのフィジカル上映を基本としながら、「コロナを越えたその先の映画の在り方を考えていく」「国際映画祭として『国際』色を高めていく」「男女平等、環境保全などSDGsへ積極的に取り組んでいく」という目的を踏まえながら、今年は「越境」というコンセプトを掲げての開催となる。
橋本は、第27回(2014)のクロージング作品に選出された『寄生獣』(山崎貴監督)で本映画祭に初めて参加した。共演した染谷将太や深津絵里らとレッドカーペットを練り歩き、舞台挨拶にも登壇。その後、第28回の『残穢』、第29回の『うつくしいひと』、第31回の『21世紀の女の子』で参加し、昨年の第33回では「TOKYOプレミア2020」部門で観客賞を受賞した『私をくいとめて』の舞台挨拶に登壇したほか、本映画祭と国際交流基金アジアセンターによる共同トークイベント「アジア交流ラウンジ」で、モデレーターを務める是枝裕和監督とともに韓国映画『はちどり』のキム・ボラ監督とオンラインで語り合ったことは記憶に新しい。
これほどコンスタントに出演作品を携えて本映画祭に参加する女優の存在は稀有で、それにも増して、プライベートでも時間を見つけて上映作品を鑑賞してきたという。そんな橋本にとって、本映画祭で鑑賞したなかで印象深いのは、どのような作品になるか聞いてみた。
橋本:「たくさんご縁があって、ありがたいですね。一番の体験は、第30回の特別招待作品として上映されたアレハンドロ・ホドロフスキー監督の『エンドレス・ポエトリー』です。人生が180度反転したかと思うほど価値観が覆えさせられました。本編中に『愛されなかったからこそ、愛を知ったんだ』というセリフがあるのですが、愛されなくても愛せるんだ……、という希望が見えたんです。それまでの自分の人生を肯定してもらえた気持ちになりましたね」
そして、映画祭の楽しみ方のひとつとして、作品の規模にとらわれず大スクリーンで鑑賞できることを挙げる。
橋本:「自分の行けそうなタイミングに上映される映画って、ご縁じゃないですか。その出合いが面白いし、劇場公開されたらこんなに大きなスクリーンでは観ることが出来ないかもしれないなという規模感の作品も大きな会場で観られる。スクリーンが大きくなれば、スケール感も大きくなりますし、その体験って映画祭の期間中しか味わえなかったりするじゃないですか。それと、コロナ禍でどういう形態になるか分かりませんが、上映後のQ&Aが好きなんです。普段はパンフレットを読むことで補われるものが、監督や役者の肉声で深く知る事が出来るというのはとても楽しいですよね」
メイン会場が、六本木から日比谷、有楽町、銀座に移ることも前向きにとらえているようで「銀座って大規模ではないけれど素敵な映画館が点在していて、私にとっても思い出深い映画館がいっぱいあります。個人的に映画館の場所ってとても重要で、その街に行きたいと思って映画館を選ぶことがあるくらいですから。銀座界隈は日本の伝統文化が根付いている場所だと思うので、そういう場所で映画祭の作品を観るとどう感じられるんだろう……というのが、個人的な楽しみでもあります」
また、昨年から始まった「
アジア交流ラウンジ」には今年も参加する。イラン史上初となる長編クルド映画『酔っぱらった馬の時間』でカンヌ国際映画祭カメラドールを受賞したほか、元「ピンク・フロイド」のロジャー・ウォーターズがプロデュースした最新作『四つの壁』が今回の映画祭でワールドプレミア上映される、バフマン・ゴバディ監督とトークを繰り広げる予定だ。
橋本:「是枝監督が作り手たちの交流する空間を昨年から用意してくださいました。私自身、海外の方というだけで言語の問題もあって壁を感じていましたが、去年は挑戦してみよう! と思ってキム・ボラ監督と対談させてもらいました。そうしたら、こんなに豊かな心の会話が出来るんだなって感じる事が出来て、本当に良い経験になりました」
コロナ禍によって、映画界はもちろん、映画祭の在り方も問われるようになってきている。今年の本映画祭が「男女平等、環境保全などSDGsへ積極的に取り組んでいく」ことを目的のひとつに掲げている点について、表情を和らげて語る。
橋本:「今年の東京国際映画祭は、とにかく例年以上に作品が面白そうなんですよね。それに、映画祭の目的に環境問題や人種差別、性差別といったSDGsについて織り込まれていることが嬉しいですね。現実的な部分で女性の監督が少なかったり、『女性の体は美しくて神秘的だ』という今まで芸術として昇華されていたものが実は誰かを傷つけたいたんじゃないかと疑問を抱き、固定観念を紐解いて考えて来たことが、映画祭のテーマに加わることで、映画が好きな人、映画に関わる人たちの意識が少しずつ変わるんじゃないかなと思います」
第34回東京国際映画祭は10月30日~11月8日、日比谷、有楽町、銀座地区で開催される。オープニング作品『
クライ・マッチョ』(クリント・イーストウッド監督)で幕を開け、クロージング作品には『
ディア・エヴァン・ハンセン』(スティーブン・チョボウスキー監督)が控えている。